占い師Mのアドバイス ~君は生きているか?~
人生の成長期に自分の成長を促してくれるような人物と出会うことがある。
アドバイザーとか先生とか先輩とか。
わたしにもひとり、そういう人がいた。占い師のMがその人である。
占い師Mに初めて会ったのは、東京に来てすぐの頃だった。
Mとの出会いは、わたしの勤めているエステサロンの店長の紹介だった。
「予約は電話でしてね。Mは電話には出ないから、留守電に自分の名前と電話番号を入れておくの。2,3日で折り返しがあったらラッキー。折り返しが無い場合はMがバカンスなのかもしれないから、そのときは縁が無いってことで」
…特に相談ごとがあるわけでは無かった。
「これまで占いに行ったことが無い」と話した私に「占いデビューしてきなよ。私の8年お世話になっているMを紹介するからさ。お客には芸能人とか会社の社長とかゴロゴロいる結構有名な人だよ。」と。
上司の言うことは一応素直に聞いておくわたしである。
その場で電話をかけ、その夜早速電話の折り返しがあった。
占い師Mに指定された場所は都内の喫茶店だった。
Mの本名はなんだろう?
ミッキー?モーリス?それともミカエル?
推定年齢50歳。白髪混じりのクルクルした髪の毛。派手な柄シャツ。彫りの深い顔立ち。グリーンの瞳。
目の前のMは…どう見ても日本人ぽくない。
…わたしの考えていることがわかったのか、「僕はクオーターだよ。」と。
「手をだして」
Mに促されてわたしはてのひらを差し出した。Mは目を閉じながら、ゆっくりとわたしのてのひらの上に自分の手をかざした。
ほんの少しの沈黙のあと、Mは話し出した。
「君がいま関心があるのは自分について、だね。自分は何ができるか?…主に仕事のこと」
どうして解るのだろう~?
わたしは自分の手のひらをじっと見つめてしまった。
「自分の可能性を探りたい気持ち、それはとてもいいことだ。仕事の方向性も悪くない。…ただ…。」
「ただ?」
「…君は生きているのかなぁ?」
突拍子も無い質問でわたしは少しムッとした。
「生きているからここにいるんじゃないですか?わたしは毎日夜遅くまでサロンで仕事をしています。休みは学校にだって通っているんです。遊んでる暇なんてないくらい一生懸命生きています。誰にも心配をかけないように真面目に自分で生活しているんです。…それなのにわたしは生きていない、とおっしゃるんですか?」
気がついたら、ものすごく早口になっていた。
Mはそれがなにか?とでも言いたげに肩をすくめ
「では、少しゲームをしよう。この喫茶店の入り口に大きな花が飾ってあったと思うが、どんな花だったかな?」
花?…う~ん確かに花が飾ってあったけれど…何だったかな。
「じゃ、この喫茶店は4階にあるが、1階に化粧品売り場があったよね。どこのメーカーが入ってたかな?」
えっと…シャネルとRMKと…なんだっけ?
「じゃ、今映画館で公開している映画の題名を5本言ってみて」
…すべての質問にわたしはあまり答えることができなかった。
「君は2つの目を持っている。大きな目だ。…でも、一体君は何を見ている?…君は何も見ていない。何も見ていない君は、今を生きていると言えるのかね。今を見ていない君は死んでるのと同じだよ。死人とは誰も仲良くなりたいとも思わないし、魅力も感じないよ。」
初めて会ったのに、すごく辛辣な言葉だった。
…こんな言葉を人から言われるなんて思いもよらなかった。
「東京じゃ映画は毎日5本どころじゃなくて、ものすごい本数が上映されている。…誰も「観ろ」と言っているのではない。ただ、いろんなことに関心を持って生活したほうがいい。本屋に行ったら「何が売れているのか?」を見る。通勤の道には何の店があるのか?花は何が咲いているのか?気にかけて過ごしたほうがいい。この喫茶店に飾ってある花も、後から見ておきなさい。何が生けてあるのか?色、形、名前、生けた人の気持…いろいろ考えることがあるはずだ。それを見ていなくて、今、ここに居る!と言えるのかな?」
わたしは恥ずかしくなって、逃げるようにその場を離れた。
今度会うときは、映画を5本言えるようになろうって思いながら…。
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